明治初年特種なる性格所持者で、女賊であり、且つ淫魔殺人として、稀代の毒婦であった高橋お伝は、天刑病に惱む夫波之助と流浪の揚句、横浜花咲町土工の親分小沢伊兵衛に身を寄せ、援けを受けて野毛町裏の茅家に住つて居た頃(明治四年と推察)、生活難に余儀なくされて、淫婦の本性を発揮し、ヨタカの群に投じ、果ては日本人よりも身人りの能い外国水夫等を常客とし、異人の筒袖を曵き、ポケッ卜マネーを窺つて居たのであつた。実に彼女が一代記中一齣の舞台は、横浜であつたのである。