らしやめんの情思

長崎と同時期に開港された横浜は、伝統の久しい長崎の古典味豊かな郷土色調に育まれ来つたのに比して、これは殆ど無人境に似た一寒漁村の上に出現したのである。此新興日本の地上に一事一物すべてが異国の匂ひ高い事象の彩りも濃く、急激なる進展を来たし、開港と云ふ画期的な衝動の下に、驚異と好奇の眼とを以て、異つた気分と環境との裡に呼吸して来た。されば総て外国人と日本婦人との関係も、そこに新味を帯びた結ばれが出来たのは当然の事である。即ち一日本婦人と異国人との間に於ける心意気や情想の上にも、著しい相違があつた事を想ふのである。