渡来の外人が益々多くなつて来るに従ひ、町娘の要求も増大して来たので、その要求を仲介する営業も、自然需給の関係上出現するのが当然である。かゝる仲介の労にたづさはるものは、素より秘密裡に行はれるので、商館出入者を根幹として、それからそれへの枝葉を延し、さては浮世の小路を歩む女衒である老婆などと連絡を保ち、社会の裏面を泳ぎ、毒牙を揮ふもぐり営業者が出来た。たまヽ雇人口入業者即ち桂庵の介在する事はあつても、それは頗る少数であつて、主として彼等もぐり桂庵に依つて、娘さんである所のらしやめんは供給された。而して外国人からも娘さんの美醜とりヾに依つて、相当な手数料の収入を得て、懐ろを温めるのである。娘さんとして異人屋敷に入るものは、単なる下婢若くは小間遣名義でもあるが、その実はらしやめんであつて、而かも外国人居留地と云ふ治外法権区域内に行はれる行為であるから、彼等に対する奉行所の取締りも、其根元を殲滅せざる限りは、奏効は覚束ない事であつた。愈々益々彼等の跳梁活躍に任せ、放任するより外なかったのである。