らしやめんの裏面

かくも豪華の極を発揮した彼女達は、其素質概ね下劣にして、無智者の多かつた事は無論である。されば役者狂ひに身をやつすもの、コックやボーイや馬丁と恋に落ち、それが為め自堕落の生涯に人つたものも多数あつた。就中、明治中葉期頃、らしやめん稼ぎを表看板にして、外人間を転々し、悪事の限りを盡し、又は裏面情人と結託して、強迫がましき行動を為すものなどあつて、彼等に恐れを為さしめたものもあつた。らしやめんおたつ・らしやめんおはつ等と評判され、さては雷おしん・浮巣のおまさなどと仇名を歌はれて、凄い腕を揮つたものもあつた。而かも身を持するに比較的謹厳なものは、外国人が帰国に際して贈与された養老金に、其身の安泰を楽しみ、さては生れ児の親となつて、終生の活計に恵まれたものもあつた。