註五

岩亀楼広告

月の夕べの花のあした、人生娯楽の際りには、綾羅錦繍身にまとひ、美酒や佳肴は心のまゝ、自由世界に生れいで、返魂香を焚すてゝ、かはゆい女にあをふとは、律義過たる写真の涕、うまい文句はあるまいに、只一枚の金幣をくべれば、美人天上よりおつこち筋の縁むすび、芸妓はござれ、それおかん、何でも蚊でもこゝろづけ、かゆい所へ手のとどく、席のもうけもしてあれば、是ぞ人民見達婆、城頭の雪とかはらぬうち、たんと買ねば老て後、咄はちつとも口なしの、山吹色は積とても、耳に蝉鳴、目に鰻、落歯金で入たとて、誠の用に立がたし。おのが田ヘ引水にはあらねど、夜なヽ通いたまへかし。今よりのちは家則をかへて廉価となし、四方の諸彦の懷をいためぬ事の主の注意、富士よりおろす涼風と共に、御出を松の月、うかれ鳥の声よりも、早く飛こみ買うヽ。

一 楼主にかはりて

桜樹街の 萩の家佐治丸述

前文桜木町老人曰ク、云々。諸君エ広告ス。猶弊店義、先般格下ゲ之際、兼テ新聞紙上ヲ以申述候通リ、高島町より当所エ引移リ仮宅中、是迄諸君御引立御最負御蔭ヲ以、殊之外繁栄仕候段、弊家主人始メ娼妓共、一同歓喜不レ斜、依レ之為二御礼一、当分之間本宅普請落成迄之内、今一際格下ゲ仕、御手軽之御遊ビ専一、御散財無レ之様、四方諸君永当御来車之程、偏ニ奉二希望一候也。

一、娼妓揚代 金五拾銭也

一、上酒一升 金三拾銭也

一、一の物一枚 金三拾銭也

十六年五月十五日より

長者町三丁目 岩亀楼 見勢