港崎町の岩亀楼

港崎町に在つた岩亀楼は、二層楼を異人館と和人館とに区別し、異人館は皇国振りを加味した裡に、異国振りの結構を多量に添へて、各室に牡丹・菊・梅、桜等の名を命じて、其彫刻と模様とに華麗を盡くし、殊に末広の名も目出度い扇の間は、花鳥風月を配して、粉色の彩り光沢の艶やかさは、実に眩惑せんばかりであったと云ふ。和人館も又雅客粋人の意に投じ、瀟洒其ものであつた。加ふるに楼中の美妓と佳肴芳酒とは、心魂を溶かすものであつたと伝へて居る。