千登世は今猶、盛業を続けて居る老鋪の割烹店である。主人沢田こうは、武州鴻ノ巣の人で、明治四年に、横浜に出でて、吉原町引手茶屋紀の国の女中となつ た。後、桜木町一丁目に茶店を開いて居たが、中区住吉町六丁目七十九番地(現今七十六番地。)に,明治十四年六月二十四日、新築開業を為し、爾来富貴楼・佐野茂と共に、其声名高く、両店廃業後は、更に一流の料亭として紳士間に喧伝され、明治四十三年六月二十六日、開業満三十年の祝筵を開いた。爾来外国貴賓の招待は、多く当楼を充てらるゝ名誉を担ひ、社交場裡の存在を明るくして居た。